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心に残る一節

変えられること、変えられないこと
加賀乙彦著



 あきらめ力について考えるとき、思い出す祈りがあります。

 
  神よ私たちにお与えください。
  変えることのできないものを受け入れる冷静さと、
  変えることのできるものを変える勇気を。
  そして、その2つを見分けるための知恵を。


 1943年にラインホールド・ニーバー牧師がマサチューセッツ州の小さな教会で初めて唱えたこの祈りは、キリスト教徒に限らず多くの人の琴線に触れ、その後、世界に広まっていきました。


 私たちはともすれば、変えることのできないものに執着してしまいがちです。その一方で、努力すれば変えられるものを変えられないと思い込んでいたり、変えていくための労力をいとうて、あるいは失敗して傷つくことを怖れてこれは変えられないものなのだと自分で自分をごまかしたりもする。だから、変えられるものと変えられないものについて、じっくり考え、明らかにしてみることをおすすめします。


 生まれ育った環境、過去の選択、すでに起きてしまったことや失ったもの、不治の病や障害、人の気持ちなどは、いくら努力しても自分の力では変えようがありません。容姿も、今は美容整形で変えられる箇所もあるとはいえ、いかんともしがたい部分が多い。


 そういったものに執着し続け、もっと背が高かったら、裕福な家に生まれていたら、こんな病気にならなければ、あのとき別の道を選んでいたら、あの人が自分を愛してくれたら・・・・と思い悩んでいても、つらくなるだけです。ならば、変えられないこととして受け入れ、次のステップに向け新たなスタートを切ったほうがいいに決まっています。


 しかし、それ以外のことは、少なくとも変えようと努力するだけの価値のあるものではないでしょうか。すぐには変わらなくても、長く続けているうちに変化が現れるかもしれない。一人では無理でも賛同者を募り力を合わせればできるかもしれない。


 もちろん、変えたいと願い努力しても変わらないことはあります。しかし、たとえ変えることができなかったとしても、そのプロセスをとおして確実に何かを得られる。人間関係も広がっていきます。そして何より、できるかどうかわからないながらも挑戦し、小さな失敗や成功を繰り返しているうちに、自分という人間や世の中の仕組みがわかってくる。自分というものを少しずつ自信がもてるようになっていくのだと思います。


◆著者は、精神科医、心理学者、作家。
「幸せになれない日本人」の秘密をと、幸福になれるための発想法にアプローチした著書である。

 



不幸な国の幸福論
著者 加賀乙彦
出版社 集英社
第四版発行 
2010年3月9日

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