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心に残る一節

個の肥大化

モンスターマザー/石川結著・光文社発行より


モンスターマザーは根が深く、社会的産物の要素が強いことがわかった。
実証的事例が多く面白く読めた。
とくに印象に残ったところを抜粋し紹介する。

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個の肥大化

 10年近く、ある企業の社宅に住む母親グループの取材をつづけてきた。転勤や引越しで顔ぶれが変わるが、「定点観測」のような形をつづけた結果、育児環境や母親の変化がはっきり現れた。

 取材をはじめた夏、社宅前の駐車スペースには水遊び用のビニールプールがひとつ置かれていた。プールはリーダー格の母親が購入したものであったが、水を入れたり、片付けをするのは交代制で、社宅の子どもたちは全員がそのプールで水遊びをする。
 手の空いている2、3人の母親が監視役となってその場でおしゃべりをし、ほかの母親は買い物に行ったり用事を済ませたりと、いわば「チームワーク」で子どもを見守っていた。

 ところがそれから3年後、2000年代に入ると、複数のプールが置かれるようになった。狭い駐車スペースに、5つも6つもプールが並び、子どもたちは別々に水遊びをしている。
 お母さんたちに事情を聞くと、「ほかの家が用意したプールでは遊ばされない」と言った。遠慮もあるし、気を遣わなくてはならないし、なにより「共用プール」では好きなときに好きなように遊ばすことができないのがイヤだ、と言う。
 各家がビニールプールを出したり片付けたりするのは合理的ではないし、子どもたちを別々のプールで遊ばせては仲間意識も育めない。そうしたデメリットを承知の上で、それでも「個人使用」がいいと言う。

 それから5年後の一昨年、今度はプールがなくなった。各家が個人使用で水遊びをしていたが、「プールを出さない家」から苦情が出て禁止になったのだ。
 駐車スペースという「共用」の場所を個人使用するのは不公平、自分の子どもに水遊びをさせたいなら自宅の浴室でするか、そうでなければ外のプールに行くべきだ、そんな意見が噴出し「個人のことは個人で」と決められた。しかもそれを決めたのは当のお母さんたちである。
 
 ひとつのビニールプールを囲み、子どもと母親が和気あいあいと水遊びをしていた光景は、わずか10年足らずでまったく違うものになった。
 集団や共用がイヤ、協力し合ったり助け合ったりするのは面倒、自分は他人に関わりたくないし、他人にも関わってほしくないといった「個人意識」が肥大化し、お母さんからも、そして子どもたちからも「つながり」が消えたのだ。
(以下略)
 
モンスターマザー

著者 石川結貴
発行所 光文社
初版発行 
2007.11.30



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