心に残る一節 シモネッタのドラゴン姥桜(抜粋)
その1
あれはユウタが3歳のときだった。
旅行で日本旅館に泊まり、部屋に敷かれた三枚の布団をみた彼は、自分も独立した員数に数えられたことに感動したのか、力強く宣言した。
「僕、今日は一人で寝るよ」
「おやすみなさい」と電気を消して数分すると、彼が布団を這い出し、父の布団をまたいで私の元に来るとささやいた。
「ママー、今、ぼくの頭の中はママーのことでいっぱいだよー」
「よっ、女殺し、ここに入っておいで」
彼は嬉々として私の横に体を滑り込ませて、さらに甘言が続いた。
「ママ僕、結婚してもママと寝てあげるからね」
黙って私たちの会話を聞いていた夫は、すかさず割って入った。
「じゃあ、パパはユウタのお嫁さんと,.寝る」
「それはダメ」
その2
まだ一人で冷蔵庫も開けられない2歳のころ、彼がジュースをねだりにきた。
「ママ、ジュースちょうだい」
彼は牛乳嫌いでジュースばかり飲む。
私は無視を決めこむ。するとユウタは口調を懇願に変えてくる。
「ママア、ジュース下さいな」
「だめです。さっき飲んだばかりでしょう」
私の返事を聞くと、彼はにわかに豹変。
「ママ、早くジュースを出しなさい」
私はあきれつつ、状況で言葉を変化させられる能力に驚いてもいた。
その3
彼が小学校に入学するとき、友人の須賀さんがランドセルを贈ってくださった。
須賀さんが我が家に電話した。
「もしもしお母さんいる?」
「須賀さん?あのランドセルの?」
「あーそうだよ」
「いつもお世話になっています。このたびは、たいへん結構なものをありがとうございました」
「あ、は、はい、どういたしまして」
彼は私が電話でいっていることをまねたのだ。
その4
2歳のころだった。
ユウタのウンチのおしめを変えていたとき、おじいちゃんが部屋に入ってきた。
ユウタが寝たままおじいちゃんに命令する。
「おじいちゃん、ここは臭うから自分の部屋にいなさい」
おじいちゃんは呆れて言った。
「それだけしゃべれるなら、はよう、おしめをはずせえや」
一言メモ
この本はいわば育児日記だが、並みの本ではない。
こんな笑い話のなかに、育児の苦労や喜びが描かれている。
文字通り抱腹絶倒、楽しい本だった。
ちなみに、ユウタくんは開成高校から東大法学部へ入り、司法試験にとたで合格。