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心に残る一節

お父さんのこと嫌いだった(抜粋)

それでもやっぱりがんばらない 鎌田 實著より


こころに残る一節  お父さんのこと嫌いだった(抜粋)
 
 結婚して子どもが生まれたとき、ぼくはいい父親になりたいと思っていた。子どもたちのよい理解者になりたいと思っていた。自分ではそのつもりだったけれど、現実は違っていた。ぼくはいい夫でもいい父親でもなかった。
 あるとき、愕然とする言葉に出くわした。
「私・・・・、お父さんのこと、嫌いだった」
うつむいて、小さな声で、ポツリとささやいた。17歳の娘の言葉に耳を疑った。えっ、なんで。
 目に入れても痛くないほど、という古い言い回しがピッタリするほど、ぼくは彼女のことを溺愛していた。そのときまでそんなこと、一度も言われたことはなかった。まわりの人を大切にする優しい子だ。本心をそれまで言わなかったのだろう。
 
 長男も同じことを言った。
「ぼくも小さいころ、ミノさんのこと、あまり好きでなかった」
 家庭を顧みない悪い父親だったのかもしれない。ぼくは仕事人間だった。2カ月にに1回ぐらいは子どもたちにテニスを教え、1年に1回は子どもたちを連れてスキー旅行にも行った。それなりに父親をやっていたと思ったのに、現実ってこんなものなんだろうな。自分が思っていることと、人が自分に対して思っていることはこんなふうに違うんだ。
 
 長男にぼくは言った。
「君はいつも明るくて、いつもいい子だった。反抗期もなかった。不思議な子だ」
息子が答える。
「ママがぎりぎりだった。『お父さんは命を助ける仕事で忙しいのよ』とぼくたちにミノくんのことをかばっていたけど、サトさんはつぶれそうだった。ぼくはサトさんを守らないといけないと思った」
 そうか、ぼくが家族を守っていたのではなく、小さな子どもが子どもなりに何かを感じて、家族の絆を守ってくれていたのか。男の子はずーと女房にもぼくにも優しかった。
 
中略
 
 親と子は以心伝心するなんて思っていたら、大まちがいだ。もっとドロドロしたものがある。もっとトゲトゲしたものがある。時には悲しいことだが、親と子の間にはあきらめや暴力がある。それでも親と子は不思議でおもしろい。
 
<一言メモ>
これは著者鎌田實さんの独白である。
著者は人格者だし、温かい人柄のヒューマニストだ。鎌田さんは、人並み以上の父親として生きてきた。それにもかかわらず、こんな意外な現実があった。鎌田さんは、その現実に直面してからは必死でその修正に努めた。
顧みると、私の人生はなんと出たら目だったことか。





それでもやっぱりがんばらない
鎌田 実著
集英社文庫
2008年2月16日発行






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