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心に残る話

墜落記
イルカと墜落/沢木耕太郎著



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墜落記
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 ブラジルのリオ・ブランコという町からサンタ・ローザという集落へ、双発のセスナでいこうとしていたときのことである。
 飛行機が給油を始めた。そのときの様子を見て、双発のセスナ機は翼そのものが燃料タンクになっていることを初めて知った。
 セスナ機に乗り込むと、外見からはわからない古さが目立った。椅子もガタガタならシートベルトも締まりがよくない。座席は2人掛けが4列あった。パイロットとポスエロ氏が最前列に座り、次の列にカメラのスガイ氏。その後ろの列に通訳のワタベ氏が陣取った。私が座ったのは最後の列だった。
 パイロットがエンジンをかけたとき、左の方のエンジンはスムーズでなく2回ほどガクッと止まったが、次第に勢いよく回るようになった。


 アマゾンの熱帯雨林は虫に食われた葉のように、あちこちに薄茶色の空き地ができていた。どのくらいアマゾンの惨状に目を奪われていたことだろう。ふと左側の窓の外に気になるものを見つけた。
プロペラの後ろから汚れた水のようなものが出ていた。カメラのスガイ氏が「燃料が洩れていますね」と言った。それをパイロットに伝えた。


 そのとき、たいしたことはないと思っていたか、非常事態に突入しており、飛行機は進路を変えUターンしていた。不意に左のプロペラが止まったが、それでも飛行機はそのまま飛んでいた。しばらくすると高度が墜ちていった。
 不意にパイロットが何か叫んだ。すると通訳のワタベ氏が慌てて言った。「後ろの荷物を捨てろと言ってます」
 荷物を誰かが捨てるということになれば、最後部にいる私ということになる。シートベルトを外し、狭い荷物置き場に行き腹ばいになった。荷物の搬入路を必死で開け、荷物を外に放り始めた。


 しばらくしてワタベ氏が「もう捨てなくていいそうです」と言った。
 席に戻り前方を見ると、熱帯雨林がぐんぐん近づいていた。どうやらこの飛行機は落ちるらしい。
それから数秒後、ガタッと強い衝撃に見まわれ、私の身体は吹っ飛ばされた。


 外に出たのは私が一番後で、ポスエロ氏が引っ張り出してくれた。飛行機が爆発する可能性があるので走ろうとしたが、背中に激痛が走った。ポスエロ氏が20メートル離れたところまで連れて行ってくれた。見るとセスナ機は、胴体の真ん中から折れていた。私以外の人は、みんな軽傷のようだった。


 その後、東京でも大騒ぎになり、電話がかかってきた。私は次のように伝えた。
「墜ちることが確実になっても、なぜか恐怖はわきませんでした。なにか面白いという気持ちになったのです。もう1つ、死とは、私にとって、ただそこにあるだけのものでした。
 一番残念だったことは、外に荷物を捨てていたので席に戻ってからの時間があまりにも少なく、シートベルトの着用など墜落に備えることができなかったことです。そのため、他の人と違い私は身体に相当大きなケガを負いました」



墜落記


イルカと墜落
著者 沢木耕太郎
発行所 文芸春秋
初版発行 
2002年3月30日




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