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■原藤さんの教室は、広島市横川駅から車で5分くらいのところにある、アパートの2階にあった。 彼女は、笑いながら持ち前の明るい声で言った。 「戦後、祖父が建てたアパートです。そのうち1戸をタダで借りています」 部屋に入ると、子どもたちが、「こんにちは」と元気よくあいさつして迎えてくれた。岡村誠くん(小3)、妹の日向子ちゃん(小1)、木村まゆちゃん(小2)の3人である。おっとりした感じの子どもたちで、とても可愛らしい。 英会話は楽しいかと聞いたら、まゆちゃんが答えた。 「面白い。なんとなく楽しいです」 レッスンが始まった。誠くんたち3人の時間割は、4時から5時までだそうだ。最初はウオーミングアップ。陽子先生から与えられた単語をノートに書きながら覚え、書いたノートはマスクして、1人が2単語ずつ発表するというレッスンだ。 「なかなか覚えられない」と言いながらも、みんな楽しそうに取り組んでいた。 次のレッスンに入る。陽子先生が次のように説明した。 「今度、平和公園に行って外国人に英語で質問しましょう。誠くんは何を聞きたい?」 子どもたちは、楽しそうに思い思いに答える。陽子先生は、これらをうまくとりまとめ、1人2つずつ、合わせて6つの質問項目をつくった。そのたずなさばきは、まことに鮮やか。 5時ちょっと前に、「ハロー」と男の子が入ってきた。川上健くん(小2)である。彼がぽつりと言った。 「ぼくは、今日のレッスンが最後になる。お父さんが転勤するので、京都へ引越しするんだ」 健くんは、心なしか寂しそう。 5時になると、誠くんたち3人が帰り、新しく北原真一くん(小6)と妹の美幸ちゃん(小3)が加わった。5時から6時まで、先ほどと同じレッスンである。 ウオーミングアップで覚えた単語を発表するとき、真一くんが「ちょっとだけ」と、マスクしたノートを開いた。これを見て、妹の美幸ちゃんが「ずるーい」と抗議。ちょっと微笑ましい光景だった。 「健くんは、今日で終わりなの。真一くんたちは随分と、健くんに教わったでしょう。お礼を言わなくては」と陽子先生が言うと、美幸ちゃんが悲鳴をあげた。 「えっ、それはたいへんだあ。これからどうするー!」 あっという間に、2時間が過ぎていった。子どもたちは、とても可愛らしかった。しかし、みんな個性が違い、それぞれ違う動きをするので、先生はたいへん。骨の折れる仕事だと思った。 「今日は、戸村さんがお出でになっているので、みんな大人しくしていたんですよ。いつもはもっと、ワイワイガヤガヤ。ですから、大声で叱っています」 明るい声で叱っている陽子先生の様子を想像すると、おかしくなった。それにしても、1時間も子どもたちをあきさせないでレッスンに集中させていく、陽子先生の手腕はたいしたものだと思った。 3年前から彼女は現在の仕事を始めた。英会話のレッスンは、毎日が同じなのであきないかと訊ねると、 「英会話のレッスンにはやりがいを感じていますが、毎日が同じことの繰り返しなので、どうしても単調になります。英会話以外に留学生のアドバイスをしていますが、この仕事が毎日の単調さを救ってくれています」と答えた。 留学生のアドバイスの内容を訊くと、 「留学すると慣れないので、いろいろと問題が起きがちです。そこで、オーストラリア、ニューヨーク、ハワイの知人と協力し合って、ホームイングリッシュや学校、お家などのお世話をしています」とのことだった。 ■昭和45年8月3日、原藤陽子さんは広島市で生まれた。短大を卒業すると、広島大学付属病院に入社、それから7年間、病院長秘書の仕事を務める。 「その7年間は楽しかったけど、自分を活かせる場所ではないと感じていました。そのためか、毎日自分の時間が奪われていくような感じがしていました。5時以降に自分の時間があったので、料理やお花、乗馬などを学びましたが、心のもやもやはふっきれませんでした」と述懐する。 大学病院を退職すると、カナダへ1年間留学した。 「カナダでは、映画専門学校に行ったり、ドッグトレーナーの資格を取ったりしました。英会話は、特に好きというわけではありませんでしたが、3ヶ月くらいするとマスターしました。この間に、もやもやしたものがふっ切れました」 帰国すると、英会話教室で2年間働く。それから、オーストラレアへ1年間留学した。 「今度の留学には、明確な目標がなかったため、オーストラリアでは迷いに迷いました。英会話スクールに行ったり、ビューティセラピストの資格を取ったり、試行錯誤の繰り返しです。ゴールドコーストのアルバイトは時間1200円だったのに、それを放棄して、メルボルンで時間500円の日本料理屋に務めました。それからタイ、イタリアへと足を延ばし、帰国しました。この試行錯誤の時期に、広島で英会話スクールを立ち上げようと決心したんです」 帰国すると、さっそく英会話スクール「Grasya English Agency」を立ち上げたものの、半年すると止めたくなり、1週間スペインへ出かけた。 「仕事のプレッシャーに負けそうになり、自由になりたくて逃亡したんです(笑)。その後は気持ちが安定し、仕事にやりがいを感じることができるようになりました」 これからの抱負は?と訊くと、 「今年中に結婚します。母親になりたいんです」と答えた。その明るい笑顔を見ていると、彼女の希望は必ずかなえられると思った。 |
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